書籍紹介

書評「限りある時間の使い方」(2023年上半期一推し)

久しぶりの更新になりますが、本年上半期の一推し本を紹介します。とはいうものの、この本の初版は2022年6月。今年の一推しにするにはやや遅いものの、私が購入した2023年3月の段階でAmazonの「仕事術・整理法」カテゴリで1位になっており、本書の勢いを感じます。その正体は何なのか? 私なりに書評という形でぜひお伝えしたいと思います。

「時間の使い方」がタイトルだがこの本は時間管理の本ではない。

「限りある時間の使い方」このタイトルを聞くと、秀逸な時間管理の手法について記載しているのではないか、という期待を抱いてしまいます。また、「限りある時間」については、1年50週として80年間生きるとすると、4,000週になります。その4,000週をいかに生きるか、はこの本のテーマではあるのですが、それでもなお、この本は巷にあふれている時間管理手法(優先順位をつけるとか、習慣化の意義とか、そういう類の内容です)とは確実に一線を画しています。その点について、序章で筆者は明確に述べています。(私はこの1文を目にした瞬間、内容を読まずに買うことを決めました。)

本書は、時間を出来るだけ有効に使うための本だ。
ただし、いわゆるタイムマネジメントの本ではない。
これまでのタイムマネジメント術は失敗だらけだった。そろそろ見切りをつけた方がいい。

P.13 イントロダクションより引用

見切りをつけた結果、得られるものは何か。それが本書の帯にある「時間と戦っても勝ち目はない」という結論です。そう、タイムマネジメントとは「時間を使いこなす」、つまり「時間と戦って勝ち得たもの」であり、時間と勝負することでもあります。ただ、この本では「(時間との勝負に)見切りをつけろ」と宣言しています。では、時間と戦わずに、それでもなお時間を有効に使うには?どうすればいいのだろうか? さあ、迷っている時間はなさそうだ。私は筆者の答えを躊躇なく示したい。それも今すぐに。

希望を捨てたとき、あなたは自分の力で歩みだすことができる。

これが「時間を有効に使う」こと?? おそらくそう思われたでしょう。その通り。ここから説明するのでお読みいただきたい。それも私の言葉ではなく、筆者の言葉で。

正しいやり方を身につければ、あるいはもっと頑張れば、どんな無謀なことも成し遂げられるという希望。全てを計画通りにコントロールし、あらゆる苦痛を避けたいという希望。そうした苦痛を避けたいという希望。すべてを計画通りにコントロールし、あらゆる苦痛を避けたいという希望。そうした数々の希望の根底にある、いつか本当の人生が始めるんだという希望。今はまだリハーサルで、そのうち自信満々で人生本番を生きられるにちがいない、という途方もない希望。
そんなものは、今すぐ捨てた方がいい。

P.269-270 エピローグ 僕たちに希望はない

この文章を読むと、「元も子もない」というように思えるかもしれません。しかし、そうではないです。時間をコントロールしようとする、有効に活用化しようとする、そうすればするほど、時間に追われるというパラドックスについて、本書は至る所でこれまでの人類史や数々の例を挙げて示しています。なぜなら、そうすること(時間をコントロールすること)で人生が豊かになると思うから。そして、そのような「時間の(有効な)使い方」についての書籍は山のようにあり、私も読んだ記憶があります。

だが、そうしてみたところで、どこまでいっても満足することはありませんでした。時間をコントロールする、この欲望にはキリがない。そして、人生は4,000週間と限られている。このことについて、本の最後で筆者はこう締めくくっています。

人の平均寿命は短い。ものすごく、バカみたいに短い。
でもそれは、絶望しづづける理由にはならない。限られた時間を有効に使わなくてはパニックになる必要もない。
むしろ、安心してほしい。到達不可能な理想を、ようやく捨てることができるのだから。どこまでも効率的で、万能で、傷つくことなく、完璧に自立した人間になることなど、はじめから無理だったと認めていいのだから。
さあ、腕まくりをして、自分にできることに取り掛かろう。

P.271 エピローグ 僕たちに希望はない

こう書くと、また「元も子もない」に逆戻りされた方もいらっしゃるかもしれません。そうではないので、改めて、本書の論旨を示します。

 本書では、人生の時間が限られているということ、さらにそのなかの限られた範囲しか自分ではコントロールできないということを論じてきた。
 単にそれが真実だからというだけでなく、その真実を受け入れたほうが、ずっと豊かに生きられるからだ。

P.274 付録 有限性を受け入れるための10のツール

要は、自分でコントロールできることは限られている、ということ。そのことはあくまでも「時間」についてであって、人の可能性を否定するものではない、ということだと私は感じています。

291ページのこの本で、私は結論しか書きませんでした。豊富な事例のうち、一つでも書くとより説得力が増すのかもしれません。ただ、そうすることでピンポイントで「わかったつもり」になるより、実際にこの本を手にして、そのすべてを味わってほしい。私はそう感じました。

幸いにも、2023年のゴールデンウイークで本書のKindle版が半額になっています。こういうのは運なので、この記事をみたときはセールは終わっているかもしれません。ただ、どこの書店でも平積みになっている本書。この記事が、購買の背中を押し、そしてより豊かな人生を過ごす結果に結びついてくれることを、心の底から願っています。